改訂版境界の理論と実務
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6界」を想定していないので,この款で「境界」という場合,特に断らない限り「所有権界」を指すこととする〈6〉。 ⑴ 境界確認・障壁築造等のためにする隣地の使用請求権 ア 障壁・建物の築造・修繕のためにする隣地の使用 土地の所有者は,境界又はその付近において障壁又は建物を築造し又は修繕するため必要な範囲内で,隣地の使用を請求することができる(民法209条1項本文)。ただし,その住家に立ち入ることは,隣人の承諾がなければできない(同項ただし書)。 隣地使用請求に対し,隣地所有者が承諾しないとき,現に隣地を使用するためには,隣地所有者の承諾ないしこれに代わる判決(民法414条2項ただし書)が必要と解される〈7〉(境界標設置請求につき,後記8頁⑵参照。)。 イ 境界(筆界を含む。)が不明な場合の調査・測量のためにする隣地の使用 前記アの規定は,境界(所有権界又は筆界)が不明な場合に境界を調査・測量するために隣地内に立ち入ることまで想定した規定か否か,必ずしも明らかでない。しかし,障壁又は建物の築造又は修繕のためにする隣地の使用が認められるのであれば,その前提としての境界を明らかにするための調査・測量についても,相隣関係の根底にある信義則(民法1条2項)〈8〉に照らすとき,合理的な範囲で隣地使用請求権が認められると解される。 ウ 隣地が所有者不明土地の場合 隣地使用請求権の行使は,隣地所有者に対する意思表示による。しかし,隣地につき,所有者の所在不明や,所有者が誰か不明の事態を生じている場合,意思表示の相手方を確定できないことから,法の建前としては,困難な所有者の特定作業を行うか,あるいは筆界特定制度を利用する他はない(所有者不明土地に関する332頁以下)。しかし,測量目的等で隣地立入りを必要とする範囲が空地であるなど,客観的に支障がないと認められる場合には,上記第1編 境界の基礎知識〈6〉  相隣関係の規定は,地上権者相互及び地上権者と所有権者の間についても準用されている(民法267条)。〈7〉  東京地判平成15年7月31日判タ1150号207頁。〈8〉  新田敏「相隣関係における信義則の機能と限界」法学研究60巻2号(昭和62年)126頁は,相隣関係は信義則適用にふさわしい法律関係であり,信義則の適用により「法的処理においてより弾力的な適用が期待できる」としている。

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