改訂版境界の理論と実務
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10 イ 囲障の一方的な設置 相隣地の一方の土地所有者等(土地賃借権者等や建物所有者等,相隣関係にある者を広く含む。以下同じ。)が勝手に囲障を設けることは許されないが,だからといって当該囲障を実力で撤去すれば,原則として不法行為(民法709条)となり,損害賠償の責任(不法行為責任)を免れない〈16〉。 ウ 囲障の撤去請求権 一方土地所有者等が勝手に作った囲障が,正しい所有権界等に存在せず,他方所有地等を侵害しているときは,他方土地所有者等は,土地所有権等に基づいて当該囲障の撤去を請求できる。 当該囲障が正しい位置に設置されたときであっても,他方土地所有者等に損害を生じることを認識しながらあえて囲障としては著しく不当と認められる材質・規模・構造のものを設置した場合には,他方土地所有者等は,受忍限度を超える部分の除去を請求することができると解される〈17〉。 ⑷ 境界標・囲障等の所有関係 土地所有権の境界線上に設置された境界標・囲障・溝等は相隣地所有者の共有と推定される(民法229条)〈18〉。ただし,①1棟の建物の一部である障壁等,②高さの異なる2棟の建物を隔てる障壁の,低い方の建物を超える部分は,防火障壁以外であれば,共有の推定を受けない(民法230条)。 なお,共有障壁の高さを増そうとするとき,一方の土地所有者は相手所有者の同意がなくとも,自分の費用と責任において増設でき,増設部分の所有権は増設者に帰属する(民法231条)。それにより隣人が損害を受けたときは,増設者は償金の支払義務を負う(民法232条)。第1編 境界の基礎知識〈16〉  最(3小)判昭和40年12月7日民集19巻9号2101頁。〈17〉  同旨,大阪高判昭和42年9月18日判時512号54頁。自己所有内に設置した場合につき,神戸地判昭和56年11月26日判タ467号154頁。〈18〉  同一所有者に属していた相隣地を甲と乙にそれぞれ譲渡するに際し,その所有権界の線上に設けられ両土地にまたがって存在するブロック塀を甲と乙に二重譲渡した場合,同ブロック塀の所有権は,対抗要件(民法177条)によって決せられるのでなく,甲と乙の共有となると解すべきである。同旨,東京地判昭和50年1月24日下民26巻1~4号103頁。

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