2 社会保障とは,「生涯のうちに遭遇する可能性のある,さまざまな生活上の危機や困難を回避,軽減するための仕組み」であるということができます。 長い人生には,それまでの生活を維持していくことが困難になってしまうような,生活上の危機に遭遇する可能性があります。例えば,病気になって働けなくなる,莫大な医療費がかかる,高齢になって働けなくなり収入の途が途絶える,寝たきりになって介護を受けることが必要になる,などです。 人間は,そのような危機に遭遇する可能性があることを知り,それを避けるために準備をしておこうとします。まず考えることは,自分でお金を貯めて,いざというときのために備えるということでしょう。しかし,生涯に遭遇する危機はどれだけあるのか,個人では確定的な予測はできません。生きるか死ぬかの病気になるかもしれませんが,ずっと元気で医者にかかることさえないかもしれません。定年で退職して収入がなくなるということは予測できますが,退職後いつまで長生きするかはわかりません。あらゆる可能性に対応できるように個人で準備しておくことには限界があります。 よりしっかりした安心のためには,個人ではなく集団で対応するほうが合理的です。まずは,家族や親戚,隣近所といった小集団=いわば身内といえるような範囲で,お互いに困ったときに助け合うことを考えます。そういう助け合いは,家族や近隣社会が生産や生活の場でもあり,だれかが病気になったり働けなくなったりしても,周りの人がそれをカバーし,援助するということができるところでは有効にはたらくかもしれません。しかし,都会のサラリーマンにはなかなかむずかしいことです。都会のサラリーマンは,会社=職場でお互いに助け合うということもできないわけではありません。しかし,会社はある年齢になると退職しなくてはなりませんし,景気が悪くなると会社ごと苦しくなることもあります。会社に自分の生活上の危機を回避する仕組みを任せることにも限界があります。そう考えていくと,もっと大きな集団,あるいは社会全体でリスクを分散するほうが,確実で安全ということになります。こうして,制度としての社会保障が生まれてきたのです。 このように,社会保障というのは,生活上の危機を社会全体で分散して確1.社会保障とは?
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