第1 社会保障とは何か7政策の大きな柱として,社会の統合と経済発展を図る政策を進めていくことが合意されます。こうした目標をもった国家は,「福祉国家」(「Welfare State」)と呼ばれます。 「福祉国家」というのは,不況とか失業とか貧困といった問題を,国家が介入することによって解決し,深刻な社会的危機がおこることを防止する,そういう仕組みをもった国家です。福祉国家は,国家のイニシアティブで,すべての国民の生活の安定と貧困からの脱却を図ることを明確にし,それによって,経済発展を図るとともに,社会的な統合,国家の一体性をつくり上げることをめざしました。1950年代から60年代,福祉国家は,高成長と低失業の双方を同時に達成し,未曾有の繁栄を実現しました。 よく,「社会保障はナショナル・ミニマムを保障するものだ。」といわれます。かつては,社会保障は,日本国憲法第25条に定められているような「健康で文化的な最低限度の生活」=ナショナル・ミニマムを実現するためのものであると考えられてきました。社会保障の水準が相対的に低いレベルにとどまっていた時代には,このような考え方も納得できるものでした。しかし,今日では,社会保障が実現しようとする生活水準は「健康で文化的な最低限度の生活」を超え,また,対象となる人びとも,最低限度の生活を維持することが困難な社会的弱者だけでなく,国民全体へ広がっています。もはや,ナショナル・ミニマムを保障するということだけでは,社会保障を説明することはできなくなっているのです。 社会保障制度は,先に述べたように,疾病,老齢,障害,失業など,生活上の危機が訪れ,生活困難に陥るおそれがあるときに,困難を軽減したり,あるいはそうした危機の発生を予防するためにつくられています。つまり,社会保障の目的は,生活の安定が損なわれないように,「健やかで安心できる生活」を保障することにあるといってよいでしょう。「健やかで安心できる生活」の水準は一定ではなく,人びとの生活水準が向上すれば上がっていくものです。生活の向上とともに,社会保障の役割は小さくなっていくので5.社会保障の目的─ナショナル・ミニマムと社会保障
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