(試し読み)家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務(第4版)
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 配偶者居住権の取得を希望するか否かが問題となる場合における調停運営上の留意点は何か。【視 点】 配偶者居住権設定における当事者に対する検討の促し 調停手続において配偶者居住権に関する合意形成を進めるためには,次のような実情を丁寧に聴取して,配偶者の権利を保護しつつ,配偶92 第2章 遺産分割調停の運営の視点の不利益性については,遺産分割調停手続において当事者間に一定の合意が形成される場合でも十分に配慮する必要がある。配偶者居住権設定後に,配偶者と建物所有者となる相続人との間で新たな紛争が起きてしまうと,居住権自体の権利関係だけでなく,扶養問題や将来の相続問題などの親族間紛争が重なり合い,法律関係がより複雑になってしまう。⑵ 配偶者居住権の設定を希望するか否かの聴取時期 配偶者居住権は,居住建物の評価に大きな影響を及ぼすことから,配偶者からの実情聴取は,遅くとも段階的進行モデルにおける遺産評価の前までに実施し,配偶者以外の相続人の意向も知っておくのが相当であろう。設例2−11配偶者居住権に関する調停運営【解 説】 調停運営としては,まずは建物敷地の評価額を確定させることを先行する必要がある。 配偶者の立場からすると,遺産ないしみなし相続財産の総額,ひいては自己の具体的相続分が明らかになってから,まず,取得を希望するであろう金融資産額との兼ね合いを検討し,その上で,①配偶者居住権の取得を希望するのか,建物所有権の取得を希望するのか,②配偶者居住権の取得を希望するとして,健康状態などを踏まえて,存続期間をどうするのか,③具体的相続分のうちいくらを配偶者居住権の取得額に充てるべきかを検討していくことになると思われる。 上記①から③の検討により,配偶者居住権の設定の有無と内容が定まるところ,簡易な評価方法によって配偶者居住権の評価額を算出する場合においては,まず建物敷地の評価額が定まっていることが前提となる。

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