新成年後見における死後の事務
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52第 2 編 円滑化法と実務の対応る。相続人が複数存在する場合,そのうちの1人でも反対の意思を表示している場合には,成年後見人はその意思に反して死後事務を行うことはできないと考え,このように定めたものである。これに対し,『相続人が存在しないか,又は相続人の存否が不明である』場合や,『相続人は存在するものの,その所在が不明,若しくは連絡をとることができない』場合については,『成年被後見人の相続人の意思に反することが明らかなとき』には該当しないと考えられる。」3)とされています。 ③「相続人が相続財産を管理することができるに至るまで」とは「基本的には,相続人に相続財産を実際に引き渡す時点までを指す。」4)「本条各号に掲げられた行為は,本来,成年被後見人の相続人において行うべきものであることから,このような時期的限定が設けられている。」5)「もっとも,成年後見人が相続財産を相続人にいつでも引き渡せる状態にあり,かつ相続人もいつでも引継ぎを受けることができる状態にある場合には,『相続人が相続財産を管理することができる』状態に至ったものと考えられ,その場合には,成年後見人は民法873条の2に規定する死後事務を行う権限を有しないこととなると考えられる。」6)とされています。したがって,弁済期が到来しているが,成年被後見人の相続人が不明である等の事情から長期間病院費用の支払がされないことになるため,成年後見人による支払の必要がある場合で,相続人に財産を引継ぐまでの間,かつ,相続人の意思に反することが明らかではない場合に限り支払が認められることになります。ただし,あくまでもこれは後見類型にのみ認められた権限であること,そして支払のために預貯金から払戻しが必要な場合は民法873条の2第3号の「その他相続財産の保存に必要な行為」に該当し家庭裁判所の許可が必要となることに注意が必要です7)。また,あくまでも弁済することができるとされたのであり,民法873条の2に基づいた支払は後見人の義務ではないことも覚えておく必要があります。 以上の点が今回の円滑化法の施行により,後見類型においてのみ一定の要件を満たせば後見人の権限として病院費用の支払が可能になったという大きな変更点になります。

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