新成年後見における死後の事務
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55相続人には病院費用の未払いがある旨を伝えるにとどめるべきです。 ただし,実務上では応急処分や事務管理を根拠に病院費用の支払をすることがあったり,「応急処分として認められる範囲内で死後事務を行うことは可能である」とする文献15)もあるようです。保佐・補助の終了については,民法876条の5第3項,876条の10第2項がそれぞれ民法654条を準用しており,民法654条は委任の終了の場合において急迫の事情があるときは必要な処分をしなければならない旨を定めています。そこで,保佐・補助終了後であっても,急迫の事情があれば,保佐人・補助人は必要な処分をする義務があることになります。これを応急処分義務といいます。急迫の事情がある場合とは,委任については,「委任終了のときに委任者が重病のため自ら委任事務をとることができないときなど,従来の委任の趣旨に従って善処しなければ委任者の不利益になる場合」で,「委任の終了に伴う当事者の損害を防止する」とされています16)。 それでは,保佐・補助の終了後,病院費用を支払うことについて「急迫の事情」があるといえる場合はあるのでしょうか。未払いとなれば,遅延損害金が発生します。これは「委任(=保佐・補助)は終了したものの,従来の委任の趣旨に従って善処しなければ委任者の不利益になる場合」に該当するでしょう。このように考えれば,被保佐人・被補助人が死亡した後に,保佐人・補助人がその病院費用を支払う行為は,遅延損害金の発生を防ぐという意味において,応急処分義務にあたるといえます。しかし,これでは,病院費用の支払のほとんどが急迫の事情にあたることになってしまい,円滑化法でさえ一定の要件を定めているのに円滑化法の対象外である保佐・補助において,ほぼ制限なく病院費用を支払うことができるというのは矛盾があります。したがって,急迫の事情については,相続人への引継ぎに多大な時間がかかる場合など特段の事情がある場合においてのみ該当すると狭く解するべきだと考えます。 また,急迫の事情がないのに,保佐人・補助人が病院費用を支払った場合は,これは事務管理(民697条)としかいえません。事務管理の場合は,費用を立替え,後に相続人に求償することが原則です。しかし,保佐人・補助第 1 章 病院費用の支払

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