第3版 Q&A DV事件の実務
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1 ドメスティック・バイオレンスの特徴と怖さ(潜在化するドメス2ドメスティック・バイオレンス及び DV防止法ティック・バイオレンス)他人間であれば犯罪となる行為でも,「痴話げんか」「夫婦げんかは犬も食わない」等と,夫婦間等親密な男女関係で生じるドメスティック・バイオレンス(以下,「DV」という)の深刻さは見過ごされてきた。DVの被害者は,家庭という密室の中で,DVにさらされつつも,なかなか被害を申告せず,耐え続けてしまう。身体的暴力のみならず,心理的暴力,性的暴力のいずれもが,被害者の自尊心を傷つけ,無力感を与える。さらに,賃金格差等,社会全体における男女の格差により,被害者は加害者と別れた後の生活に不安を抱く等して,別れることは容易ではない。加害者は始終DVをふるうのではなく,時に優しい態度をとることもある。そうすると,被害者は自分さえ我慢すれば修復可能かもしれないと思い,耐え続けてしま子どもがいる場合,離婚したら,子どもの進学,就職,結婚に悪影響があると心配して,離婚を思いとどまる例もある。子どもにとってもDVは苛酷である(→163頁第5)。自己犠牲を美徳として内面化している被害者は,加害者と別れることで,子どもに教育機会を喪失させる等「迷惑をかける」ことを懸念し,自分さえDVを我慢すれば,子どもの「豊かな」生活を維持できると思い,耐え続けてしまう。職業を持つことを躊躇しあるいは禁じられ,実家とのつきあい,友人関係もコントロールされ,孤立していくと(社会的隔離),被害者はますます無力感を感じ,我慢し続けてしまう。他方,妻が仕事を持ち社会的に活動している場合にも,自分に自信のない夫が,自己のパワーを見せつけるかのように暴力をふるうこともある。そうして,家庭という親密圏の中で暴力が継続すると,経済的その他の面で加害者に依存する被害者は,暴力を暴力として認第Ⅰ部 DV事件実務の基礎う(→4頁2参照)。第1 1第

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