第3版 Q&A DV事件の実務
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3コラム「法は家庭に入らず」。近代の公私二分論のもと,私的領域である家族には,国家は介入しないことをよしとするこの法格言は,公権力の干渉を排し私的領域を尊重する反面,家族の中で行われるDV,子どもへの虐待,高齢者・障がい者への虐待を放置し,黙認する機能も有した。しかし,現実の家族は,対等な個人から成り立っているのではなく,力関係に非対称性が歴然とある。非対称な関係の中で「弱者」が暴力にさらされてきた。DV,子どもへの虐待,高齢者・障がい者への虐待は,それぞれ,親密圏である家族の非対称性の問題を如実に示す。公私二分論のもとで私的領域での暴力が不問に付されてきたことについて,フェミニズムは長く問題視してきた1。その主張の成果もあって,今日,徐々に,家族内の非対称性の問題が歴然とあることが認識され,家族内の暴力,虐待もまた,個人の尊厳と自由の観点から,看過できないものとして問題視されるよう に な っ た。DV防 止 法(2001年 成 立,2004年 改 正,2007年 改 正,2013年 改正),児童虐待防止法(2000年成立,2004年改正,2007年改正,2012年改正,2017年改正),高齢者虐待防止法(2005年成立,2012年改正,2014年改正),障害者虐待防止法(2011年成立,2016年改正)は,いずれも,家族という親密圏において生じる暴力に国家が介入し被害者を救済しようとする法的規制の実現といえる2。もっとも,これらの法を比較してみると,法的介入の手法が異なることがわかる。すなわち,罰則付保護命令制度を創設したDV防止法は,家族の構成員一人一人を人格の主体として把握し,権利を付与し,市民的自由の保障を徹底するアプローチ,すなわち,「人権アプローチ」が最も強い。一方,介護疲れなど養護者自身が支援を必要としているという認識から,養護者への支援も法の目的とし,養護者への支援等により高齢者虐待を防止しようとする高齢者虐待防止法及び障害者虐待防止法は,「人権アプローチ」が最も弱い。また,児童虐待防止法は,臨検や捜索,家庭裁判所による一時保護の審査を設け「人権アプローチ」を強化しつつも,家族の再統合も目標としているもので,DV防止法と高齢者虐待防止法・障害者虐待防止法の中間に位置している3。「法は家庭に入らず」第1 ドメスティック・バイオレンス及び DV防止法

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