2 ドメスティック・バイオレンスの実情⑴ 調査から浮かび上がる被害の実情 ① 被害者の多くは女性4第Ⅰ部 DV事件実務の基礎1 フェミニズムの公私区分批判の論理については,田村哲樹「公/私区分の再定義」辻村みよ子監修・編著『ジェンダー法・政策研究叢書第10巻 ジェンダーの基礎理論と法』(東北大学出版会,2007年)を参照。2 井上匡子「DV対策の現状と理論的課題」法律時報86巻9号61 〜 62頁は,親密圏の非対称性問題を等閑視したまま自己責任を強調し安易に私的自治に委ねると弱者が切り捨てられる一方,公権力の単純な介入は,親密圏が担うべき重要な意義を損なうおそれがあるとし,単純な介入と非介入の間の二者択一ではなく,非対称的関係で生じる人権侵害に実効的に対応しうる法的枠組みが必要であるとするが,傾聴に値する。3 小島妙子「ドメスティック・バイオレンスをめぐる法政策─「人権アプローチ」と「福祉アプローチ」」前掲注1『ジェンダー法 第10巻』,同「ドメスティック・バイオレンスが法に問いかけるもの」岡野八代編『自由への問い7 家族─新しい「親密圏」を求めて』(岩波書店,2010年),『DV・ストーカー対策の法と実務』48 〜 66頁参照。4 2018年3月公表以前のものとして,総理府男女共同参画室(当時)として実施し公表した「男女間における暴力に関する調査」(2002年2月公表),以後,内閣府男女共同参画局による「配偶者等からの暴力に関する調査」(2006年4月公表),「男女間における暴力に関する調査」(2009年3月公表及び2012年4月公表)がある。識すること自体が困難になり,そこから容易には離脱できない。加害者も,自己の行為の重大性を認識し反省するに至らない。そのため,DVは潜在化しやすく深刻化しやすい。内閣府男女共同参画局が,1999年以降,全国規模で行ってきた5度にわたるDVに関する実態調査や,民間団体の調査により,DVは決して珍しい現象ではないこと,被害者は圧倒的に女性であること等,被害の実情が明らかにされてきた4。2000年2月公表の内閣府男女共同参画局の調査により,女性回答者の4.6%(男性回答者0.5%)が,配偶者から命の危険を感じるくらいの暴行を受けた経験があると回答し,さらに,女性回答者の4.0%(男性回答者0.5%)が,配偶者から「医師の治療が必要となる程度」の暴行を受けた経験があると回答した。なお,女性の方が男性に比べて圧倒的に多くの,そして深刻な被害を受けていることを明らかにしたこの調査は,DV防止法の制定(2001年)
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