第3版 Q&A DV事件の実務
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⑵ 女性に対する暴力(国連文書上の概念)第Ⅰ部 DV事件実務の基礎(→39頁第2の2)に沿って,DVが身体的暴力に限られず,精神的暴力,性的論者によって異なり,人それぞれイメージするところも若干のずれがある。従前は,DVといえば,身体的暴力が真っ先に思い浮かべられた。東京都が1997年に全国の自治体に先駆けて行った「女性に対する暴力」の実態調査において,「平手で打つ」等の身体的暴力のほかに,「何を言っても無視する」「誰のおかげでお前は食べられるんだと言う」「交友関係や電話を細かく監視する」等の精神的暴力,「避妊に協力しない」「脅しや暴力によって,意に反して性的な行為をする」等の性的暴力についての被害経験の有無を尋ねたことを皮切りに,総理府や内閣府の調査でも,身体的暴力,精神的暴力,性的暴力の被害経験について調査するようになった。DV防止法上の定義暴力をも含むことを前提に,行政上の支援・施策も検討されるようになったといえる。現在では,おおむね,DVのバイオレンス,すなわち暴力とは,「殴る・蹴る」といった身体的暴力のみならず,心理的暴力,性的暴力をも含むとの認識が定着してきた。身体的暴力のみならず,配偶者等親密な関係にある相手から,馬鹿にされたり,ののしられたりすること,無視されたりすること,交友関係を細かく監視されたり,日常生活の行動を規制されること等の心理的暴力や,望まぬ性行為を強いられる等の性的暴力も,被害者にとって,ダメージが大きい。これらの行為も,身体的暴力と同様,個人の尊厳を害する行為であり,決して軽視してはならない。女性差別撤廃条約(1979年採択,1985年日本批准)は,女性に対する暴力についての条文を含んでいないものの,条約の実施機関である女性差別撤廃委員会の解釈が,その欠落を補ってきた。女性差別撤廃委員会による女性に対する暴力に関する一般勧告(1992年)19号は,「ジェンダーに基づく暴力は男性との平等を基礎とする権利及び自由を享受する女性の能力を著しく阻害する差別の一形態である」とし,「6.この差別(差別撤廃条約1条)の定義は,ジェンダーに基づく暴力,すなわち,女性であることを理由として女性に対して向けられる暴力,あるいは,女性に対して過度に影響を及ぼす暴力を含む。それは,身体的,精神的,又は性的危害もしくは苦痛を加える行為,か12

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