3 本件における法的問題点の考察11事例1 婚姻外男女関係の法的解決 なお,本件は既に訴訟になっていましたが,調停手続では,最初から上記算定表を持ち出さないで,依頼者の収入と支出の状況を丁寧に説明し,「現在の収入では,……しか支払えない。」との主張をした方が低めに抑えられることが多いようです。調停手続は話し合いであり,支払えない金額を約束してもすぐに遅滞が始まっては,相手方にとっても,本当に元も子もないからです。 また,妻が現在無職で収入がない場合でも,妻の過去の稼働実績,現在の稼働能力等から,妻に近い将来賃金センサス,あるいは少なくとも年収110万円程度のパート収入の得られる蓋然性があれば,その旨主張すべきです。調停手続において,実際にこのような主張を取り入れて,養育費が算定されたこともあります。もちろん,夫側が無職の場合でも同様です。⑴ 離婚原因について 本事例では,B女は,裁判で離婚を求めましたが,A男は離婚自体については争わない意向でしたので,離婚原因は直接の争点とはなりませんでした。なお,離婚原因としての「不貞行為」と有責配偶者からの離婚請求の可否については,コラム③「浮気をした夫からの離婚請求」(40頁)を参照して下さい。⑵ 慰謝料請求の可否について 夫婦は互いに貞操義務を負い,その義務違反はその行為に違法性を与えるため,他方配偶者及び加担した第三者は,配偶者の被った精神的苦痛に対する賠償義務がある,との考え方が支配的です(最判昭54・3・30民集33巻2号303頁)。 しかし,この考え方は必ずしも普遍的なものではなく,諸外国では不貞行為に基づく損害賠償を認めないか制限する方向にあり,日本でも,様々な見地から,これを制限ないし否定すべきとの考え方が強く,判例もこの傾向にあります。 この傾向は,婚姻モラルの変化や個人が自然的な合意に基づき性関係を持つ権利をプライバシー権とする考え方が背景にあるようです。
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