1 事例の概要274第8章 相続分・遺産分割に関する法律相談があります。⑴ 母と同居して世話をしてきたのはA子さんだけであったこと A子さんには,弟が1人,妹が2人いました。お父さんは既に亡くなっていて,A子さん夫婦はお母さんと一緒に暮らしていました。A子さん夫婦とお母さんが住んでいた家の名義はお母さんの名義でした。 A子さんは,結婚をしたときからずっとお母さんと同居をしていたので,お母さんが亡くなるまで約30年にわたってお母さんと同居して世話をしてきていました。A子さん夫婦は,できれば自分たちの家を持ちたいとも考えていましたが,お母さんから一緒に暮らしてほしいと頼まれていたので長年にわたってお母さんと同居をしてきたのです。お母さんには亡くなる5年前くらいから認知症の症状が出始めていました。このため,A子さんは,夜中に外出してしまって居所が分からなくなったお母さんを探しに出かけたり,治療のために病院に付き添って行ったりしていました。A子さんはお母さんの世話をするために大変な思いをしていたのです。A子さんがお母さんの世話で大変な思いをしているのに,A子さんの弟や妹たちは,お母さんの世話はA子さんに任せきりで,自分たちは全く世話をしようとしませんでした。 A子さんのお母さんは,A子さんがずっと世話をしてくれていたことに感謝していて,元気なころには,自分が死んだあとは自宅の土地・建物はA子さんにあげると言っていました。しかし,A子さんのお母さんは,遺言書を書かないまま亡くなってしまったのです。⑵ 遺言は作成されず法定相続に A子さんがずっとお母さんの世話をしていたことは,弟や妹たちも知っていました。このため,A子さんは,遺言がなかったとしても,自分がずっと住み続けてきている家を相続することについて,弟や妹たちが文句を言うことはないだろうと考えていました。ところが,実際にお母さんが亡くなって相続の話をしたところ,弟や妹たちは自分たちにも相続権があるので,相続財産の4分の1ずつを渡してほしいと言いだしたのです。お
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