実例 弁護士が悩む家族に関する法律相談
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4 A子さんの居住の利益は保護されるのか278第8章 相続分・遺産分割に関する法律相談さんの寄与分である,という主張をすることになったでしょう。殊に,お母さんが認知症になったのちには,A子さんはお母さんの療養看護のためにかなりの労力を使っていたので,審判になってもA子さんの寄与分は認められたはずです。⑷ 寄与分に関する裁判例 審判例では,被相続人が認知症となり常時の見守りが必要になった後の期間について,特別の寄与があったとして,介護をした相続人の寄与分を認めているものがあります(大阪家審平19・2・8家月60巻9号110頁)。この審判例では,親族による介護であることを考慮して1日あたり8,000円,3年間で876万円の寄与分を認めており,A子さんのように,認知症の親を献身的に介護した人が寄与分を主張するときの参考になります。また,介護保険法が施行されたのちは,多くの介護事業者が訪問介護や通所介護などの様々なサービスを提供しているので,介護事業者のサービスを調べることによっても,A子さんの寄与分を算出することができそうです。⑴ 居住の利益とは それでは,A子さんが長年にわたって不動産に住み続けてきたことによる居住の利益は,相続にあたって考慮されるのでしょうか。親と長年同居して親の世話をしてきた相続人の立場からすれば,自分が住んでいる親の名義の不動産を取得できて当然と考えるでしょうし,遺産分割によって他の相続人の住居は何ら影響を受けずそれまでと同じ暮らしができるのに,親と同居して親の世話をしてきた相続人だけが長年住み慣れた家を手放さなければならなくなるのは不公平だとも思われます。実際には,親との同居の期間,親と同居していた相続人が親の世話をどの程度していたのか,他の相続人に特別受益があるのか,他の相続人も親の世話をしていたのかなどの具体的事情によって判断が変わるのでしょうが,少なくともA子さんのような事案では,A子さんの居住の利益は相続において考慮されてしかるべきだと考えられます。例えば,A子さんの事案で不動産価格の1割相当(700万円)の居住の利益が認められたとしたら,A子さんの居住の

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