実例 弁護士が悩む家族に関する法律相談
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6 おわりに5 話し合いで解決〜でも不動産は売却280第8章 相続分・遺産分割に関する法律相談 何度か交渉を重ねた結果,弟や妹たちは,A子さんの寄与分や居住の利益を考慮して,A子さんが他の相続人より多めに相続することを了解してくれ,話し合いで解決をすることになりました。しかし,不動産全部をA子さんのものにすることまでは了解をしてもらえなかったので,不動産は売却することになり,A子さんが不動産に住み続けることはできませんでした。A子さん夫婦が若ければ,弟や妹たちに支払う代償金を借り入れて不動産をA子さんが取得するという解決もあり得たでしょう。しかし,A子さんのお母さんが亡くなったときにはA子さんの夫は定年退職をしていて,代償金を借り入れることが不可能であったため,不動産を売却せざるを得なかったのです。また,弟や妹たちにA子さん夫婦のことを考える寛容さがあれば,不動産の名義を兄弟姉妹の共有にした上でA子さん夫婦が無償で(又は少しだけ賃料を払って)住み続けるという解決方法もあり得たでしょう。しかし,弟や妹たちには残念ながらそのような気持ちはなく,不動産の売却を強く求めてきたのです。 兄弟姉妹たちよりはいくらか多めに相続することはできたものの,A子さん夫婦が住み慣れた家を出なければならないという結論であったため,代理人としては後味の悪さが残りました。 その後に関わった遺産分割においても,被相続人名義の不動産に相続人が住んでいることが問題になった事案が何件かあります。そのうちの1件は,家庭裁判所での審判で不動産を兄弟姉妹の共有とする判断がなされ,共有物分割訴訟を提起して長年にわたって争ったのちに,不動産に居住していた相続人が銀行から借り入れを受けることができたため,他の相続人に代償金を支払うことにより解決しました。他方で,A子さんの事案と同じように,親と同居していた不動産を売却して分割せざるを得なかった事案もあります。いずれにしても,相続財産に不動産が含まれている事案は,解決が困難な場合が多いようです。

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