全訂 新しい家族信託 (試し読み)
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316債権等の流動化や証券化、事業の再生や資金調達、業務提携など幅広く活用できるとされている。しかし、一方で自己信託は、委託者兼受託者がその債権者から逃れるためにこの制度を悪用して財産を隠したり、あるいは強制執行の免脱行為をしたりなど債権者詐害の問題があるとも言われている。このことは、新信託法の制定過程でも大きな問題となり、制度としては成立したものの、この制度をよく周知させるためとして、その施行は1年間延期されたのである。第1 自己信託とは㈡ 自己信託と信託宣言 ところで、自己信託は、別名「信託宣言」(declaration of trust)という名称でも呼ばれている(新井「信託法-第4版」34、135ページ)。 信託法の改正の審議に当たっても、自己信託については、「信託宣言」として取り扱われていた。信託法改正要綱試案を見ると、自己信託については「いわゆる信託宣言」といい(「補足説明」70、234ページ)、法制審議会信託法部会(平成17年6月3日開催第16回会議)の議事の概要の中でも、「信託宣言について」として議題となっていた。なお、同部会に出席した参考人の多くは、「自己信託」という用語を用いてこれを説明していた。 また、実際に制定された信託法の本文には、自己信託という表記はなかったが、信託法の附則の中で、「自己信託に関する経過措置」という表題(附則2)がなされ、その後制定された信託法施行規則には、これを使用する用語とし、「法第3条第3号に掲げる方法によってされる信託を『自己信託』という」(2条1号)と定め、その名称が統一されることになった。㈢ 自己信託は家族信託として活用できるのか⑴ 立法担当者の説明によれば、自己信託が福祉型信託に活用できるとし、そのケースとして、法務省のパブリックコメント等に、「(自己

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