全訂 新しい家族信託 (試し読み)
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1 高齢者福祉型家族信託の活用に向けて397 本編においては、家族信託の中でも福祉型信託を中心に取り上げ、参考となる文例を紹介する。 文例は、あくまでも参考のためのものであり、実際の信託の設定に当たっては、必ず、信託設定の目的、信託財産、受益者の生活環境と家族状況やライフプランなどを考え、さらに課税問題等をも考慮してスキームを組み立てて制作願いたい。 福祉型信託は、その多くは長期にわたるものである。この種の信託においては、それぞれの個別事情を判断して受益者が高齢になっても信託の目的が達成できるよう誠心誠意企画制作する必要がある。⑴ 我が国の超高齢化社会では、加齢や認知症などにより判断能力や財産管理能力が低下した高齢者が増え続けている。生活に支障のない軽度の方(軽度認知障害者-MCIの人も含む。)のみならず中等度の認知症の方の独居の高齢者も少なくない。こうした高齢者の大多数は無防備であり、成年後見制度を活用して自分の財産を守っている者はごくわずかと言えよう。⑵ 年老いたS氏は、認知症を患った妻Bさんの所持金を、事業に失敗した長子がいつも持ち出しているのを見て、妻には財産管理ができず、金銭を相続させることはできないと考え悩んだ末、堅実な次子Tさんに、妻に遺す金融資産を託して、必要な都度生活費や医療費など渡すことを考えた。 この事例は、信託法が改正されて間もなくのころ、筆者が相談を受1 高齢者福祉型家族信託の活用に向けて第1 高齢者福祉型信託

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