はしがき 3 平成9年,私は弁護士19年目にして初めて,本格的に弁護士会の仕事をするようになりました。第二東京弁護士会の弁護士事務局長に就任したのを皮切りに,司法制度改革審議会の発足後は日弁連の司法改革担当嘱託となり,平成17年6月に日弁連事務次長を退任するまでの8年余りの間,弁護士会の事務局体制の確立や業務方法の定式化,司法制度改革審議会の議論への対応,弁護士制度の改革など,得難い経験をしました。それらが一段落した平成17年9月,第二東京弁護士会が設立した都市型公設事務所(弁護士法人東京フロンティア基金法律事務所)の所長を引き受け,司法制度改革の理念となっている「市民が全国どこでも誰でも良質な法的サービスを受けることのできる社会」に少しでも近付けたいと考え,爾来8年ほど若手弁護士の育成と弁護士過疎地域といわれる地域へ弁護士を送り出す仕事をしてきました。 若い弁護士たちは,2年ほどの養成期間にオンザジョブの方式で弁護士の仕事を自分でやりながら,弁護士としてのスキルを磨き全国各地へと巣立っていきます。こうした若い弁護士に,どのようにして弁護士としての精神や仕事のノウハウを伝えていけばよいのか,私なりに腐心してきました。 弁護士の仕事のやり方については,例えば,司法研修所の教官たちが作成した「民事弁護の手引」があります。また,仕事の分野ごとに書式集やハウツーものと言われる書籍もたくさん作られてきています。書式集や分野別の手引書などは,私自身よく利用させてもらっていますし,弁護士として仕事をしていく上で不可欠,必須のものとなっています。 他方で,若い弁護士たちが,法律相談を受け,事件を受任し,事件活動を進めていく姿を見ていると,ハウツーものの書籍などにほとんど書かれていないこと,経験のある弁護士にとって当たり前のことがなかなか分からないという場面に遭遇します。そうした姿を見るにつけ,私自身も30年前にそんなことで壁にぶち当たったということを思い出したりします。自分自身の若いころの体験は,経験や技術に実質化されているものもあれば,忘れてしまっているものもあります。今日では,委任契約の書面を交わすことや適正・妥当な額の弁護はしがき
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