推薦のことば コンピュータ技術の発展は、今日の社会のほとんど全ての場面に大きな影響をもたらしています。われわれ弁護士は、法律実務において、「基本的人権を擁護し、社会正義を実現する」(弁護士法1条1項)という使命を実現していかなければなりませんが、コンピュータやデジタルデータに関する適切な知識がなければ、この使命を十分に果たしていくことは難しくなりつつあるといえるでしょう。 伝統的な弁護士業務である訴訟実務は、いまだに、紙の書類やファクシミリが中心の手続ですから、デジタル証拠などを論じる意義はあまりないようにも思えるかもしれません。しかし、法律上の制度がどうあろうと、社会における多種多様な記録は、否応なしにデジタル化されています。われわれ弁護士は、日々の実務の中で、デジタル形式で記録された情報を、どのように漏れなく収集し、効率的に分析し、いかなる形式で裁判所に提出するのかという問題に頭を悩ませています。もし弁護士がデジタル証拠を収集し損なえば、勝訴すべき事案で敗訴判決を受け、無辜が有罪判決を受ける冤罪事件を生み出すことにもなりかねません。 このことは、訴訟以外の法律実務でも同様です。一例を挙げると、企業の不祥事調査では、膨大なデジタルデータを迅速に精査することが大きな実務的課題となっており、技術的な支援がなければ十全な調査は難しくなっているのです。 このような今日の実務の実情からすると、「デジタル証拠」をテーマにした本書は、待ち望まれていた、時宜を得た企画といえるでしょう。本書では、デジタル証拠に関する実務的な問題を、民事・刑事を問わず、網羅的に検討しており、実務的要請に十分に応えるものとなっています。 本書の主な執筆陣は、第一東京弁護士会総合法律研究所のIT法研究部会のメンバーです。実務に軸足を置きながら、理論的にも相当踏み込んだ検討がなされており、まさに「理論と実務の架橋」の試みといえるでしょう。かつては日弁連にもコンピュータ委員会が存在しましたが、単位会のi推薦のことば
元のページ ../index.html#5