は し が き 表示に関する登記についての大きな特色は,第一に,登記官が,職権ですることができること(法28条),第二に,登記官に実地調査権が付与されていること(法29条)です。すなわち,登記官は,必要があると認めるときは,申請又は職権に係る不動産の表示に関する事項を調査することができるとされていますから,実地調査における登記官の調査結果は,具体的な登記申請の受否に大きな影響を及ぼします。 また,不動産登記制度の基礎としての権利の客体である土地又は建物の現況を明確にする表示に関する登記については,権利の客体である個々の不動産が異なることから,具体的事案についての個別の対応が必要となってきます。 したがって,表示に関する登記については,登記先例をもって,統一的な取扱いをすることが困難な状況も考えられるため,「表示に関する登記に先例はない。」ともいわれています。 もちろん,表示に関する登記手続については,不動産登記法を始めとする関係法令に詳細な規定が設けられていることから,これらの関係法令を熟知していれば,適正な事務処理に当たって,特段の支障はないといえます。 しかしながら,権利の客体である土地又は建物の現況を明確にするという表示に関する登記制度の使命を果たすためには,事案が個別具体的であるが故に統一的な事務処理が困難な場合であっても,その適正な事務処理が求められることはいうまでもありません。そして,過去における同種事案の事務処理を検討するに当って,最後の拠り所となるのは,登記先例であるといえます。 個々の不動産の現況及び事実関係を的確に把握し,これを登記記録に反映させるためには正確な法律判断が要求されますが,関係法令の解釈に当たって,先例の果たす役割は,極めて重要であり,表示に関する登記の事務処理に当たっては,先例の調査研究が不可欠であると考えられます。 表示に関する登記は,周知のとおり,昭和35年法律第14号による旧不動産登記法(明治32年法律第24号)の一部改正によって新設された制度ですが,改正前から,多くの先例が発出されてきました。そして,これま1はしがき
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