15第1章 国際ビジネス法とは、どういうものかわからない。和訳を作成する作業をすることにより、より深く、正確に英文契約書の構造や表現の違いを把握することができるだろう。 ただし、契約書の訳文を作成した場合に、原則的には、2つの異なった言語の契約書の両方に署名すべきではない。言語の異なる契約書が別々の国で独自に効力を持つのは好ましくないからである。異なった言語で契約書が作成される場合には、どちらの言語によるものが正本であるかを明確に定めておくべきであろう。各国で、異なる言語による契約書を正本とする合意も有効となる可能性はあるが、両者の同一性には十分なチェックが求められる。 もっとも、UNIDROIT国際商事契約原則2016(本書では、「ユニドロワ2016」という。)の第4.7条は、「契約が2つ以上の言語で作成され、それらが等しい権威をもつにもかかわらず、それらの間に相違がある場合には、最初に作成された方の版に従って解釈されることが望ましい」と定めており、裁判所がこうした考え方を採用する可能性もある。言語をめぐる紛争も面倒であるから、言語の選択も安易に考えない方が良い。 国際ビジネスにおいては、1つの案件で日本法と外国法の専門的知識が同時に必要とされることが多い。法的ニーズが多岐にわたり、その内容も複雑化・高度化している。各国の弁護士同士は、非弁護士との提携とは異なり、世界的に共通した法的サービスを提供できるという考え方から、国際ビジネスの実情や政治情勢等に基づいた高度なリーガル・サービスへの需要の高まりを受け、国際的なローファームが成長してきた。 日本でも、日本の弁護士と外国弁護士が国際的に豊富な経験と世界的なネットワークを構築し、大規模なビジネス展開が図られている。外資系ローファームの東京事務所は、アジア地域の出先事務所との密接な協力関係を強調し、世界各国の主要都市で多数の法域にまたがる法的サービスを提供することを売りとしている。多様な言語、文化、法律の知識と経験を持ち寄って複数の国の弁護士が一体となってチームを編成し、数千人規模の弁護士を擁する法律事務所も少なくない。依頼者に最良の成果をもたら国際的ローファームのビジネス展開column
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