刑実
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第 1 章 「刑事司法ソーシャルワーク実践」総論9利用できるようケアマネジメントすることも考えられます。 この刑事司法ソーシャルワーカーの「その人らしさ」への支援は,被疑者・被告人である本人の自分らしさの保持の反転といえるでしょう。 本来持っている自分らしさを保持するためには,日常生活上の意識として自己決定と他者依存とのバランスが重要ですし,親族や福祉関係とのつながりとしてのセルフケアも必要となっていきます。また,支援を受ける者の「その人らしさ」を維持するためには,本人の自分らしさを主張できる場や日常生活の安定が欠かせないことは言うまでもありません。自分らしさが変容し,その人らしさという他人の評価も一時的にも変わることも考えられますが,支援者は,本人の自分らしさの在り様を統合して「その人らしさ」と捉え,支援を継続していきます。⑵ 権利擁護と倫理的ジレンマ:代弁機能と調停機能 それでは,「その人らしさ」への支援を権利擁護の視点から捉えて考えてみましょう。ソーシャルワークの定義にも明文化されているところですが,刑事司法ソーシャルワークにおいても権利擁護は中核的概念です。 実際,被疑者・被告人の中には,逮捕される以前の生活において,権利が侵害されていた者も少なくありません。そのまま釈放となれば,本人の自覚のないままに,あるいはその生活を上手に言語化できず,再び権利を侵害された環境に戻りかねません。それを自分らしさとするならば,刑事司法ソーシャルワーカーは,その実態を目の当たりにして権利侵害を見過ごさず,本人の訴えを代弁し,釈放後の権利を擁護する機能を果たさなければなりません。そこから,本人の自分らしさの良い面(ストレングス)が見えてくるのではないでしょうか。 それから,例えば,家族が障害者年金を管理していることを知らされていない本人は,ホームレス状態で,食べ物を買う金銭もなく,空腹のためスーパーでパンを窃取し現行犯逮捕された事案があります。この場合,刑事司法ソーシャルワーカーは,調停機能として,家族との関係調整を行いました。釈放後,本人はグループホームに入所しました。成年後見制度を利用し,成年後見人等によって財産管理と身上監護が行われ,本人は年金

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