刑実
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第 1 編 総論 〜刑事司法・更生支援と福祉の関わり〜第を受給し,金銭的生活が安定したため,窃盗をしなくなりました。 ここでは,少し時間を要しましたが,刑事司法ソーシャルワーカーが立案した更生支援計画に沿って,成年後見制度の利用申立てにより本人の権利擁護がなされていったと捉えられます。それは権利擁護に関わるミクロレベルのソーシャルワーク実践です。 権利擁護は,基本的には支援に向けての本人の自己決定が必要です。特に,本人の福祉的支援を受けることへの同意です。同意して福祉的支援を受けて生活していくことも自己決定です。また,不同意により,釈放後もホームレスを続けることも自己決定となりますが,ここでは本人保護の立場も出てきます。刑事司法ソーシャルワークでは,本人に福祉的支援は必要と考えても,本人の同意なしに福祉につなぐわけにはいきませんし,支援先と個人情報を共有することもできません。このような本人の自己決定により本人の権利を擁護することが不可能となった場合,刑事司法ソーシャルワーカーは倫理的ジレンマを感じることがあります。その場合,再度,本人の判断能力を確認し,信頼関係を損なわないようにしながら,本人の不同意の理由を聞きます。そして,支援内容の再検討も視野に入れながら,本人への具体的支援内容を説明し,福祉的支援を受けることに同意するよう丁寧に説得を試みることが重要となります。 実際の刑事司法ソーシャルワークの実務では,弁護士が本人から同意を得た上で,支援に着手します。それでもまれに,弁護士から「本人は福祉の支援を受けたくないと言っている。このまま釈放となれば,再犯に及んでしまう可能性が高いので,福祉について説明して支援してほしい。」等の要請を受けることがあります。そのようなとき,ソーシャルワーカーは権利擁護を意識し,かつ倫理的ジレンマを感じながら専門職として活動する場合もあると思われます。〜事後:刑務所出所後の支援(出口支援)から事前:被疑者・被告人の段階10第 2 事後から事前の対応へ(地域の福祉関係者の活躍)

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