刑実
52/60

第 2 編 ケーススタディ 〜項目別・事例別に学ぶ実務のポイント〜らしいということのみでした。2 被疑者からの聴取 通常,初回面接の主な目的は,①問題の概括的な把握,②信頼関係の構築にあります。そのためには,本人の話を傾聴することで抱えている困難や不安を支え,他者には話しづらい思いを語ってもらう必要があります。 今回の面接の目的は,岩間伸之(注1)が必要な情報として提示している,「本人からの理解」です。しかも,留置施設という非日常的な場所で,今の思いを話してもらわなくてはいけません。もし,生活歴や病歴,家族や福祉サービスの利用状況等についての事前情報があれば,面接の組立てを行い,今回とは違う内容の面接になっていたと思います。 ほとんど情報がない中で,まず本人に面会をしました。限られた時間の中で,事件の本質を見つけることは困難ですが,被疑者の精神状態を瞬時に感じて面接を進め,場面展開をしていかなくてはいけません。そして,事件の要因となった疾病や障害,社会的な背景について明らかにし,早急に更生支援計画を立てる必要があります。 「対人援助職の中核的実践は,対人援助の基本的な知識や技術を自在に応用してクライアントに照準を合わせて行う,極めてライブ性の強い〈面接〉にあるのは自明です。ですから,面接の出来如何がすべてを決めるといっても過言ではありません。」(注2) 今回の事例では,ドアを開けて入ってきた被疑者は,「お母さん?えっ,お母さん?お母さんかと思った。」と言いながら笑顔で椅子に座りました。初めての出会いは被疑者の勘違いから始まり,こちらの話しかけにも素直に応じてくれました。出会いが笑顔から始まったことを味方に,柔らかな雰囲気の中で進めることにしました。 客観的情報が少ないので,本人の話も真実なのかどうかの判断はできません。動機についての「大切な緑が傷つけられていて,頭に来た」というような意味不明な話であっても,本人の認識する世界を本人の言葉で聞き,事件を起こした当時の様子を推測するしかありません。本人の思いを全て受け止める,という傾聴の姿勢で面接に臨みました。また,面接の途中で,本人が174

元のページ  ../index.html#52

このブックを見る