第 2 編 ケーススタディ 〜項目別・事例別に学ぶ実務のポイント〜ました。 被疑者の家を訪れるのは,生活保護担当のケースワーカーだけだったようですが,「良い人だよ」と話してくれました。また,それは医師に対しても同様でした。今回の事件は人に暴力を加えるという犯罪ですが,本質的なところでは,他者に対する穏やかな感情があるのではないかと感じました。 話を聞いているうちに,雑然としたアパートで携帯電話をいじりながらビールを飲んでいる,孤独な被疑者の姿が浮かんでくるようでした。親族からもすでに見放されてしまったのだろうか。怠薬をもっと早く察知し,医療につなぐ方法はなかったのかと思いました。3 本人を取り巻く関係者からの情報の収集 被疑者から聴き取った内容は,本人の認識している現実ですが,さらに被疑者を取り巻く関係者から客観的な情報を聴取し,被疑者の置かれていた状況を両面から見ていく必要があります。本人の話から,事情を聴取する関係者として,生活保護担当ケースワーカー,医師,精神病院の医療SWが浮かんできます。また,情報を持っている機関として,市役所の障害福祉課に話を聞くことができると思われます。 面会後,福祉的な観点から犯罪に至った原因を推察し,本人らしい,安定した生活を継続していくためには,今後どのような支援が必要かについて,弁護人と意見交換を行いました。 今回の事件については以下のように犯行に至った原因を推察しました。① 2年の間,入退院を繰り返しながら,今回も薬を飲んでいなかった。さらに,禁止されていたと思われるアルコールを多量に飲み,病状が悪化していた。② 病状観察と指導という立場で看護師が来ていたが,それも断り,支援者による見守り体制がなかった。③ 家族や友人とのつながりがほとんどなく,相談できる人がいなかった。 そして,今後については,入院による病状観察と薬の再調整が必要であること,退院に際してはデイケアや訪問看護,訪問介護等の医療・福祉サービ176
元のページ ../index.html#54