2Ⅰ 内縁・事実婚とは事実上婚姻関係ト同様ノ事情ニ存リタル者ヲ含ム)」として内縁を正面から婚で,内縁の妻を保護するために婚姻についての効果をどの範囲で内縁にも与えるべきなのかという点が明治民法下において問題となりました。判例はまず,内縁の不当破棄について損害賠償責任を認める判断を示し,これを受けて学説は,内縁を婚姻に準ずるものとして扱うべきことを主張しました(準婚理論)。 一方,社会保障法の分野では内縁の妻を保護するため,内縁の当事者を対象とした制定法が登場します。1923 年工場法改正とこれを受けた工場法施行令です(1926 年 7 月施行)。職工が業務上死亡した場合に工場主が支給する遺族扶助料について,「本人ノ死亡当時其ノ収入ニ依リ生計ヲ維持シタル者」も対象として加えました。この法改正では,職工本人との身分関係は明示されていませんが,内縁の妻を「配偶者」とは異なる者として,直系卑属・尊属よりも後順位者としてこれを保護する目的で行われました。その後,省令レベルでは「配偶者(届出ヲ為サザルモ姻と同様に扱う(「準婚」扱いする)規定が登場し,法律レベルでは 1933年の恩給法改正や 1937 年制定の母子保護法においても同様の規定が定められ(もっとも,受給権を制限する規定として),1942 年公布・施行された戦時災害保護法で,法律レベルで初めて,内縁の妻に受給権を与える規定において,同様の括弧書き規定が登場しました。 明治民法下において,婚姻届を出さずに事実上の夫婦として共同生活を行うカップルを「内縁」と呼んで法的保護を与える法実践が積み重ねられてきました。
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