内縁・事実婚・同性婚の実務相談
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第 1 判例による法形成─民法領域5 内縁,とりわけ内縁の妻の保護の出発点となったのは,大審院の婚姻予約有効判決(大連判大 4.1.26 民録 21 輯 49 頁)です。この判決で大審院は従来の判例を変更して内縁を「婚姻の予約」とし,その不当破棄について損害賠償責任を認める判断を示しました。本件は,挙式し,婚姻の届出をすることなく同居した後,数日で男性が女性に対し一方的に関係を解消したという事案でした。 判決は,婚姻予約は将来において適法な婚姻をなすことを目的とする契約であるため有効であるとして,従来の判例の立場を覆し,当事者の一方が正当な理由なく婚姻をすることを拒んだ場合,他方はその予約を信じたために被った損害を賠償することを相手に求めることができるが,当該請求は債務不履行による(契約違反による)べきであり,不法行為を原因として請求すべきではないと判断しました。 この判決は,婚姻予約の法的効力について判示するものでしたが,婚姻予約の不当破棄という法律構成を用いて内縁の不当破棄について債務不履行責任を認めるというアプローチを採用したものであり,後の判決で踏襲され,判例として不動のものとなりました。 婚姻予約有効判決の採用した法律構成は,内縁関係そのものを直接に対象とするものではなく,あくまで婚約破棄についての判断でした。そこで,内縁の一方的な解消(破棄)に対する救済については有用な法律構成でしたが,婚姻の予約とする法的構成では,事実上の夫婦として共同生活を行うことから発生する様々な問題,例えば婚姻費用分担に相当Ⅱ 内縁・事実婚の法的規律の沿革

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