自原住
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 6311) 賠償額の予定は契約内容になっている。それ故、「市長が定める額」というのは事案ごとに市長に裁量を認めたものではないと考える。毎年、市長は近傍同種の住宅の家賃を定める際などに使用損害金の額を定める必要があると考えるが、市長が特に定めていない場合は、使用料及び共益費の合計額を使用損害金として請求するにとどめておくのが穏当であろう。12) 債権者は債務者の不履行を主張立証する必要はなく、履行期限が到来していることを主13) 債務者の責めに帰すべき事由によることは、そもそも債務不履行に基づく損害賠償請求権の要件事実ではない。では、債務者が損害の発生が自己の責めに帰すべき事由によるものでないことを主張立証した場合はどうか。通説は、賠償額の予定があるときは、そのような反証を許さないとするが、判例は自己に帰責事由がないことを証明することによって予定賠償額の支払義務を免れるとする(東京控判大5.9.21新聞1181号23頁、大判大8.2.5評論8巻民法475頁)。14) 我妻『債権総論』132頁。15) 改正前民法420条は、損害賠償額の予定があるときは「裁判所は、その額を増減することができない。」と規定しているが、改正民法420条においては、この文言は削除されている。裁判実務では、賠償額の予定のうち著しく過大と認められる部分等について、民法90条の公序良俗違反等を理由に無効とする判断が定着していた(東京地判平25.4.26消費者法ニュース98号311頁、東京地判平9.11.12判タ981号124頁、東京地判平2.10.26判時1394号94頁等)。改正前民法420条の文言のままでは、いかなる場合にも一切の減額が認められないとの誤解を生じかねないため改正民法420条では削除されている。同条の適用時期については、前記第1章、第4、3の⑤参照。4 遅延損害金の請求⑴ 滞納使用料等に対する遅延損害金 金銭債務の不履行については、その損害賠償の額は法定利率によって定め額の範囲内で市長が定める額11)と定められている(X市条例39条4項)。同条に定める額は改正前民法420条に定める賠償額の予定であると解される。 同条1項は「当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。」と規定しており、損害の「額」の予定のみを規定しているかのように読めるが、債権者は、債務不履行という客観的な事実が生じたことを証明すれば12)、債務者の責めに帰すべき事由によることも13)、損害の発生したことも証明しないで予定賠償額を請求できると解するのが相当である(通説)14)。したがって、賠償額の予定についての合意があれば、債権者は損害の発生、損害額について立証する必要はない15)。但し、使用損害金は使用料(賃料)、共益費だけでなく、債務不履行に基づく損害の全てを含むので、たとえ他に損害が生じているとしても合意された金額以上の請求はできないことになる。張立証すれば足りる。 第1 使用者に対する滞納使用料等請求訴訟  

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