(試し読み)家庭裁判所における監護者指定・保全の実務
33/50

序章 プロローグ 127 「なるほど。高田さんとしては,無断で連れ去られたお子さんを早急に取り戻したい,そのために法的な手段を取りたいとお考えなのですね」 永田弁護士は,依頼者である高田浩一の相談を端的に要約した上で,「ところで,高田さんは奥さんとの離婚についてはどのように考えていますか」と問いかけた。 「離婚,ですか……?」と戸惑って浩一が言葉を失うと, 「離婚についてはまだ考えておられない,まずはお子さんを手元に取り戻したいということなのですね」と自ら言葉を引き取り,「ただ,いずれ奥さんから離婚請求があると考えていた方が良いと思います。まぁ,それはその時にまたご相談することにして,現時点で高田さんの意向を叶える手続としては,家庭裁判所に子の監護者指定審判事件と子の引渡し審判事件を申し立てて,併せて審判前の保全処分を求めるのが最善だと思います」と矢継ぎ早に説明した。 浩一は「それが一番良い方法なのであれば,お願いします」と頭を下げた。1 浩一と玲奈の出会いと結婚 浩一と妻玲奈との出会いは,高校の放送委員会の活動であった。 浩一の1年先輩であった玲奈は,明朗活発で目立つ存在だった。軽音部にも所属し,ボーカルの玲奈の周囲は男女を問わずいつも仲間の喧騒で賑わっていた。 一方の浩一は,天体観測や昆虫採集などの活動をする地学生物部に所属する地味な高校生であった。玲奈は委員会活動の面倒な準備作業はすべて周囲に押し付ける身勝手さがありながら,選曲や企画のセンスが良く,浩一はそうした玲奈に淡い恋心に似た思いを寄せていた。 そんな浩一と玲奈が交際するようになったのは,浩一が高校を卒業した年の秋のことだった。 浩一は卒業後,家業の和菓子店「満月堂」で働き,ときどき部活に顔をプロローグ序章

元のページ  ../index.html#33

このブックを見る