(試し読み)家庭裁判所における監護者指定・保全の実務
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128 序章 プロローグ出していた。玲奈は,卒業後,アパレル関係の会社に就職していた。 毎年OBとして訪れていた恒例の文化祭で浩一たちは自作のプラネタリウムを展示していたところ,偶然玲奈が訪れての再会だった。 在学中,それほど親しいわけではなかった2人だが,仕事と恋愛の両方に行き詰まっていた玲奈の愚痴を浩一が聞いたことがきっかけとなって交際を始めたのだった。 玲奈にとって浩一はこれまで付き合ってきた仲間とは違う不思議な存在だった。気の利いた会話やしゃれたセンスもないのだが,無理して張り合う必要がなく,仕事の愚痴を聞いてもらうだけで心がほっと軽くなった。 浩一は,自分にはない玲奈の華やかさに惹かれながら,時折見せる明るく勝気な表面とは違った内面の脆さを見て,玲奈を支えてあげられるのは自分しかいないのではないかと愛しく思うのだった。 平成20年3月3日,交際を始めて1年半ほどで2人は結婚,浩一の実家の近くにアパートを借りて新婚生活を始めた。高校時代の2人を知る友人たちはもちろん教師らにとっても驚きのカップルであったが,当人たちはお互いを運命の相手だと信じていた。2 子どもの出生 浩一と玲奈は,時折,けんかはあるものの総じて和やかに共働きの生活を続けていた。 結婚2年目で玲奈は妊娠,それを機に退職し,平成23年9月1日,長男拓斗を出産した。 玲奈にとって育児はなかなかの試練であった。もともと玲奈は掃除洗濯が苦手で,料理を作りはするが洗い物は嫌いといった具合で,総じて家事は得意ではなかった。その点,浩一は,家事が苦にならないので,玲奈がやらなければ適宜に補っていた。 しかし,子どもが生まれると,夫婦だけの生活では保たれていたバランスが微妙に崩れ始めたのだ。浩一不在の日中に何度も何度も繰り返さなければならない授乳,おむつ替えは,手を抜くことができず,その他の家事も減るわけではないので,玲奈はストレスを感じることが増えていった。 拓斗の首が座り,外出ができるようになると,玲奈は,拓斗を連れて満月堂を手伝うようになった。赤ん坊と二人きりでいるよりも気分転換にもなり,子どもの世話よりも接客の方が性に合っている面もあった。

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