⑴問題の所在このように,本決定は,「請求の原因である事実」の概念について,実体的な観点よりは,争点や攻撃防御方法の共通性という手続的観点から,その概念を広く捉えているところに特徴があるといえます。しかし一方で,両訴訟の争点や審理の進捗状況等は事案ごとに多様であるので,両訴訟の進行の程度の違いや各当事者の主張立証の内容等によっては,損害賠償請求訴訟を移送して離婚訴訟に併合してしまうと,かえって円滑な訴訟進行を害してしまう場合もあり得ます。⑵相当性の判断そこで,裁判所には,関連損害賠償請求に関する人訴法の各規定の趣旨に沿って異種手続間での移送及び併合が認められて円滑な審理判断が行われるように,「相当と認めるとき」(人訴8条1項)に限り移送を認めるとされ,「相当性」の判断には慎重さが求められるといえます(岡部喜代子「職分管轄」野田愛子=安倍嘉人監修『改訂 人事訴訟法概説』(日本加除出版,2007)64頁)。本決定の事案では,裁判所は,先行する離婚訴訟において,夫甲と妻乙の陳述書が提出され,人証申請もなされている状況であったので,損害賠償請求訴訟を家庭裁判所に移送して離婚訴訟に併合しても,離婚訴訟の審理のために損害賠償請求訴訟の審理が著しく遅延する状況になく,争点や攻撃防御方法の共通性から訴訟経済と立証の便宜にかなうと判断しましたが,「相当性」の判断については,今後の判例の集積が待たれるところです。関連論点として,家庭裁判所で係属中の離婚等訴訟の被告が,原告は第三者と不貞行為をした有責配偶者であると主張して離婚請求の棄却を求めている場合において,被告が第三者を相手方とする損害賠償請求訴訟を,本判決の事案のように地方裁判所に提起するのではなく,離婚訴訟の係属する家庭裁判所に提起することができるかという問題があります。この点,文献によれば,東京家庭裁判所では,そのような訴訟を受理して地方裁判所への移送はしないとの取扱いがなされているとの実務の運用が紹介さ82 移送の相当性3 関連論点について
元のページ ../index.html#26