第1 採 用■ 実務ポイント 募集時や採用説明時に具体的な労働条件を明示した場合,それが労働契約6 指針第3の1⑸ハでも,「明示する従事すべき業務の内容等が労働契約締結時の従事すべき業務の内容等と異なることとなる可能性がある場合は,その旨を併せて明示するとともに,従事すべき業務の内容等が既に明示した内容と異なることとなった場合には,当該明示を受けた求職者等に速やかに知らせること。」とはされていますが,募集の際に明示した労働条件と実際の労働契約締結時の労働条件が異なることまでは否定していません。 したがって,例えば,募集の際に賃金額について「見込額」であることを明示していれば,その労働条件は当然には労働契約の内容にはならないものと考えられます(後掲八洲測量事件)。 もっとも,求人広告に「見込額」であることを明示していたとしても,労働契約締結まで,すなわち,採用内定通知までに別段の労働条件を提示していなければ,他に賃金額についての意思表示がない以上,求人広告に記載された労働条件で労働契約を締結する旨の合意があったと認められる可能性もあります。 したがって,募集時の労働条件が暫定的であったり,不明確であったりする場合には,労働契約締結時に改めて具体的かつ確定的な労働条件を通知すべきであると考えます。 なお,求人広告や採用面接等で説明した賃金額を下回る賃金額を実際に支払うこととした場合,引き下げた賃金額の程度や,労働者に与えた精神的衝撃の程度によっては,信義則違反として,慰謝料支払義務を負うおそれがあることに留意する必要があります(後掲日新火災海上保険事件)。の内容となります。 募集時や採用説明時に提示する労働条件が暫定的なものであれば,その旨を明示し(「具体的な労働条件については採用内定時に通知します。」等の文言を記載しておくことが考えられます。),具体的な労働条件が確定した場合には,労働契約締結(一般に採用内定通知)前に,同条件を労働者に通知しておくことが必要です。
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