労判
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■ 裁判例の紹介❶ 千代田工業事件(大阪高判平成2年3月8日判タ737号141頁)7Case1 募集の際の労働条件の提示 使用者が期間の定めのある労働者を募集しようとしたにもかかわらず,公共職業安定所に提出する求人票の雇用期間欄に「常用」と記載し,具体的雇用期間欄を補充せず,空白のままとし,定年制欄に有(55歳)と記載したところ,それを見て応募した労働者の労働契約について,期間の定めの有無が問題となった事案です。 裁判所は,公共職業安定所の求人票に求められる真実性,重要性,公共性等からして,求職者は当然求人票記載の労働条件が雇用契約の内容になるものと考え,求人者も通常は求人票に記載した労働条件が雇用契約の内容になることを前提としていることからすると,求人票記載の労働条件は,当事者間においてこれと異なる別段の合意をするなど特段の事情がない限り,雇用契約の内容になるものと解するのが相当であるとし,同事案では,使用者の内心にかかわらず,「常用」の記載及び雇用期間欄が空白であることをもって,期間の定めのない労働契約が成立していると判断しました。 なお,当該労働者は,入社後に,能力不足等を理由として,使用者と新たに有期労働契約を締結しているところ,裁判所は,新たな労働契約の締結による期間の定めのない労働契約から有期労働契約への変更を有効と認めています。❷ 八洲測量事件(東京高判昭和58年12月19日判時1102号24頁) 石油ショックによる業績の落ち込みを理由に求人票に記載していた給与見込額より実際に支給する給与額を引き下げたところ,試用期間経過後にそれに気付いた労働者が会社に対して,給与見込額との差額を請求した事案です。 裁判所は,入社から数か月前に行われる新卒者の求人時に新卒者の賃金を確定的なものとして提示することは困難であること,求人は労働契約申込みの誘因であり求人票はそのまま最終の契約条項となることを予定するものではないこと,採用内定時に賃金を含む労働条件が全て確定していなかったとしても労働基準法15条の労働条件明示義務には違反しないこと

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