2事実上の平等を志向し、法制度のみならず男女の定型化された役割分担2)観念の変革まで締約国に義務づけた画期的な条約である。国連憲章から女性差別撤廃条約へといたる一連の展開は、性/性別にもとづく差別、特に女性に対する差別や暴力に毅然と立ち向かう国際人権法の意思を体現している。女性差別撤廃条約選択議定書にもとづく個人通報制度や調査制度の導入は、国際人権法を性/性別にもとづく人権侵害に対処する3)ためのより実効的な法体系へといざなっている。世界人権会議で示された「女性の権利は人権である(Women’s Rights are Human Rights)」という標語は、女性の権利が周縁的な課題ではないことを示した名言である。ところが、性/性別に関する国際人権法の展開において、差別や人権侵害の対象が「女性」であることそのものについて、疑問がはさまれることは稀であった。たしかに、「女性も一枚岩ではない」との認識のもと、開発途上国の女性、有色人種の女性、先住民の女性、難民の女性といった「女性」という属性と他の属性が重なりあうような複合的・重層的な困難については比較的早い段階から意識が向けられてきこれらの意識は「性/性別」という基準からみた「女性」であることそのものに向けられたものではない。他の属性によって生じる「女性」の多様な生き方と、「性/性別」そのものの特徴によって生じる多様な「女性」の生き方は、似て非なる問題系である。性的マイノリティに関連して問われているのは、多様な性のあり方を生きる「女性」の人権で4)た。しかし、1)たとえば国連憲章1条3項、13条1項b、55条c、世界人権宣言2条、16条、自由権規約2条1項、3条、4条1項、26条、社会権規約2条2項、3条。2)Cook, Rebecca ed., 1994, Human rights of women : national and international perspectives, University of Pennsylvania Press. ; 山下泰子『女性差別撤廃条約の研究』(尚学社、1996)、小寺初世子「女性の権利(人権)の国際保障:女子差別撤廃条約の目標は「事実上」の男女平等実現」国際法外交雑誌98巻1・2号(1999)37頁参照。3)選択議定書の意義を起草経緯から総合的に分析したものとして、山下泰子・植野妙実子編著『フェミニズム国際法学の構築』(中央大学出版部、2004)。4)たとえば女性差別撤廃条約そのものにも、農山漁村の女性(rural women)に関する個別の規定がある(女性差別撤廃条約14条)。
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