「人権の無視(disregard)および軽侮(contempt)が人類の良心を激高させる野蛮行為(barbarous acts)をもたらしたため、人類が、48)金・前掲注7)46‒47頁、80‒81頁。しかしながら、国際人権法の議論において、この歴史の中に「性的」マイノリティは含まれてこなかった。マイノリティそのものの定義はい8)まだ議論の途上にあるため、「性的」マイノリティが含まれるか、あるいは含むべきかなどといった問題への回答もまた、あいまいなものとなる。ただし、これまでに保護の対象とされてきた「国民的/民族的(National)」、「民族的/種族的(Ethnic)」、「宗教的(Religious)」、「言語的(Linguistic)」といった要素は、近代国家が国境によって分断される中で、歴史的に国内のマジョリティとの共生や、自国のマイノリティが隣国のマジョリティであるといった状況の中で認識されてきた特徴をもつ。この文脈に「性的(sexual/gender)」を含めることは、国際人権法上のマイノリティという概念形成の過程に照らして困難と考えられる。⑶ 国際人権法の起源と性的マイノリティ以上のように、国際人権法における「性/性別」と「マイノリティ」のいずれの歴史にも性的マイノリティは含まれてこなかった。では、性的マイノリティは、国際人権法が展開していく流れの中で初めて認識されるようになった新しい人権問題と位置づけられるか。国際人権法の起源を振り返ると、これを新しい人権問題と位置づけることには大きな疑問符がつく。国際人権法は、国連を中心とする国際社会の活動の中で生み出されてきた法の領域である。国連は設立目的の1つとして「人権及び基本的自由を尊重するように助長奨励することについて、国際協力を達成すること」を掲げる(国連憲章1条3項)。この目的を遂行するための第一歩として採択された1948年の世界人権宣言前文には、次のような一節がある。
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