6正規刑法犯(Berufs Verbrecher)は緑色、移民(Emigrant)は青色、聖書研究者(エホバの証人、Bibel forscher)は紫色、同性愛者(Homosexuell)はピンク色、反社会性をもつ者(Asozial)は黒色の逆三角形が、上着と外套の左胸とズボンの右側に縫い付けられていたことが示されている。ユダヤ系の人々には黄色の正三角形を2枚組み合わせてダビデの星をあらわす標章が用いられており、ユダヤ系かつ他の集団に属する場合には、黄色い三角形とそれぞれの色の組み合わせで標されていた。性的マイノリティやLGBTQ+といった概念が登場する以前のため明確ではないものの、今日でいうところのゲイ男性やトランス女性には主に同性愛者のピンク色の標章が、レズビアンやトランス男性には反社会性をもつ者の黒色の標章が付けられていたといわれ世界人権宣言は、ホロコーストなどの野蛮行為(barbarous acts)を繰り返さないことを誓った上で、「人種(race)、皮膚の色(colour)、性(sex)、言語(language)、宗教(religion)、政治上その他の意見(political or other opinion)、国民的もしくは社会的出身(national or social origin)、財産(property)、門地(birth)」による差別の禁止を規定した(世界人権宣言2条)。民族や国籍、宗教や政治的意見などを理由とする差別や暴力は、このように国連による人権保障のための活動の当初から明確な対象とされてきた。国連はその後も人権侵害をうけやすい人々や集団の属性や特徴を「発見」することで、すべての人(all human beings)のすべての人権の享有の実現に向けた取り組みを継続している。1990年には移住労働者権利条約(すべての移住労働者とその家族の権利の保護に関する国際条約)が、2006年には障害者権利条約も採択され、ホロコーストが人類に与えた教訓は、国際人権法のもとで十分に生かされてきた。ところが、強制収容所で迫害を受けてきた同性愛者ないし性的マイノリティは、国連の人権保障に関する議題において、約50年以上にわたってカテゴリーとして取り残されてきた。1990年代半ばから少しず10)る。10)ヘーガー・ハインツ(伊藤明子訳)『ピンク・トライアングルの男たち:ナチ強制収容所を生き残ったあるゲイの記録 1939-1945』(パンドラ、1997)参照。
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