「人権は、人であれば誰でも、国籍、人種、宗教、言語、文化、つ議論の対象となってきたものの、本格的な展開がみられる2011年まで、更に約20年―合計して約70年―の歳月を要している。国際人権法の起源において、同じように野蛮行為の対象とされていたにもかかわらず、忘れられた存在であったといえる。性的マイノリティは、国際人権法の展開の中で新たに浮上してきた人権問題ではなく、その起源に明確に存在していたにもかかわらず、気づかないふりをされ続けてきた歴史をもつ人権問題といえる。本書では、国際人権法のうちヨーロッパ人権条約(人権および基本的自由の保護のための条約)の判例を素材として、国際人権法における性的マイノリティの権利保障を分析し、日本の現状について考察する。ヨーロッパ人権条約を主な素材とするのは、豊富な判例が蓄積されているという物理的・現実的な理由に加えて、次の3つの理由がある。⑴ 人権の普遍性1993年の世界人権会議で採択されたウィーン人権宣言および行動計画は、その5項において、人権の普遍性(universality)を宣言した。人権は、すべての人がすべての権利の享有対象であることを原則する。その意味では、人がもつ属性や特徴が何であれ、その人が暮らす場所がどこであれ、何かが人権享有の境目となることは、根源的な語義矛盾となる。横田洋三は『国際人権入門』の冒頭において、国際人権という言葉のもつ矛盾を次のように表現し11)た。2 なぜ、ヨーロッパ人権条約の判例か711)横田洋三「国際人権の意味と意義」横田洋三編『国際人権入門』(法律文化社、2008年)1頁。なお、本書は2013年に第2版が刊行され、2021年にはSDGsの視点を盛り込んで『新国際人権入門:SDGs時代における展開』と書名を更新して出版されている。2なぜ、ヨーロッパ人権条約の判例か
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