ることの検証も求められる。したがって、精緻に展開されてきたヨーロッパ人権条約の判例は、類似の事例が少ない日本において有益な参照資料となると同時に、それと異なる解釈を採用する際には、内在的に反駁すべき解釈として立ちはだかるものである。⑵ 司法機関による判断ヨーロッパ人権条約は、ヨーロッパ人権裁判所(およびかつてのヨーロッパ人権委員会)により、具体的事例に関する解釈が展開されてきた。裁判所の裁判官は、各国における最高位の裁判所の裁判官や検察官、弁護士、著名な法学者などが着任する例が多く、高度な法律の専門性を背13)景とした判断が積み重ねられている。1950年の条約成立以来、司法機関としてのあり方について、制度や手続の改変も繰り返されており、そこで下される判断は、ヨーロッパ評議会閣僚委員会などを通して、各国の法政策に具体的な影響を与えている。また、ヨーロッパ人権条約は、1948年の世界人権宣言を法的拘束力ある条約とする作業が遅々として進まない中で、地域と内容を限定して、いち早く条約として成立したものである。普遍的な条約は、1966年に自由権規約として成立した。自由権規約にはその履行監視機関として自由権規約委員会が設置されている。同委員会には、人権侵害をうけた個人から締約国の条約違反に関する通報を受けることができる個人通報制度が設けられている。しかしながら、通報をうけた委員会には法的拘束力のある判決を下す権限はなく、条約違反性に関する見解(Views)を述べる権限のみが与えられている。たしかに委員会を構成する委員は法律の素養をもつ者が指名されているため(自由権規約28条2項)、解釈としての正当性は担保されているものの、その判断は厳密には司法判断ではない。2 なぜ、ヨーロッパ人権条約の判例か913)「資料Ⅲ:ヨーロッパ人権裁判所裁判官一覧」小畑郁ほか編『ヨーロッパ人権裁判所の判例Ⅱ』(信山社、2019)476‒479頁参照。
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