3_性国
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に、多層的立憲主義にもとづく人権保障の仕組みを提唱する。多層的立憲主義とは、「憲法による人権保障のしくみに個人通報/申立制度をはじめとする国際人権条約による人権保障のしくみを積み上げることで公16)権力を統制する構想」である。日本国憲法98条2項の誠実遵守義務ならびに日本国憲法97条の基本的人権の本質は、国家が国際人権法の一般的な解釈にしたがうことを法的に義務づける。もちろん、無条件の遵守ではなく、憲法の根幹を揺るがすような場合や他の重要な権利と抵触する場合などの正当な理由を説得的に立証できれば、国家が国際人権基準とは異なる解釈を採用することも可能となる。両者の理論は、国際人権法を単なる指針や参考資料としてではなく、憲法(ないし人権)解釈において一定の義務的性格をもつものと考える点17)で共通している。国際人権法は国家の行為を規律する国際法の一部であり、その逸脱には、責任ある説明(accountability)が求められる。外国法の解釈がそこに同等に含まれるかはさておき、少なくとも国際人権法は、成立や締結、解釈・適用などの法実践過程に国家が明示的または黙示的に関与した規範として責任ある説明の対象となる。義務的性格の淵源を作り出したのは国家自身であり、それに反する言動は原則として許されないとの前提で議論が展開されなければならない。日本国憲法98条2項にいう「誠実な遵守」は、したがって、ヨーロッパ人権条約を含めた国際人権法の総体としての解釈に、国家の行為を規律する効力をもたせているものと考えられる。2 なぜ、ヨーロッパ人権条約の判例か1116)齊藤正彰「憲法の国際法調和性と多層的立憲主義」『北星学園大学経済学部 北星論集』52巻2号(2013)312頁。17)カナダの事例をもとに「参照」を類型化しながら憲法解釈に与える影響を分析した、手塚崇聡『司法権の国際化と憲法解釈:「参照」を支える理論とその限界』(法律文化社、2018)も参考になる。

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