ヨーロッパ人権条約には、「世界人権宣言中に述べられる権利の若干のもの」(前文)が規定されている。自由権が中心であり、規定されている実体的権利は1966年に採択された自由権規約にほぼ等しい。同条約は、1条に締約国の人権保障義務が規定され、2条から12条まで個別の人権が列挙されている。特徴の1つは、それぞれの権利および自由ごとに制約が許されうる事由が列挙されていることである。たとえば、本書で頻繁に登場する8条の「私生活の尊重をうける権利」は、2項において「法律に基づき」「国の安全、公共の安全もしくは国の経済的福利のため、また、無秩序もしくは犯罪の防止のため、健康もしくは道徳の保護のため、または他の者の権利および事由の保護のため」「民主的社会において必要なもの」以外の介入を禁止しており、裏を返せばこれらの事由をみたす制約を許容している。もっとも、規定される権利および自由の性質等により、制約が許されうる範囲は異なっている。また、条約上の権利および自由について、13条は国内における実効的救済手段を得る権利を、14条は差別なく保障をうける権利を規定する。いわゆる付随的性格をもち、いずれも2条から12条のいずれかの権利および自由の享受における救済手段や差別なき保障をうける権利となっている。特に、14条の付随的性格については、第6章であらためて検討する。その他、15条は緊急時には免れうる条約上の義務があること、16条は外国人の政治活動への制限が10条(表現の自由)、11条(集会結社の自由)、14条(差別の禁止)の例外であること、17条は権利濫用の防止を、18条はそれぞれの制約の目的外の使用は許されないことを規定する。⑶ 個人による申立てヨーロッパ人権条約は、国内裁判と同じように、個人が国家を相手取り、人権侵害を申し立てることができる点に大きな特徴をもつ。人権保障という条約の目的や国際裁判としての実効性、事件数の増大などの点3 ヨーロッパ人権条約について13⑵ 実体規定
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