3_性国
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査が行われる。委員会では、過去の判例に照らして全会一致の判断となる場合は、不受理決定だけでなく、本案判決まで下すことができる。また、受理可能性の基準として、これまでの国内救済完了原則や匿名、明白な根拠不十分などに、相当な不利益を被っていない場合の不受理が追加された。小法廷で審理されるのは、具体的な判断が必要と考えられる事件のみである。大法廷で判断が行われるのは、小法廷の判決に不服な当事者が上訴し、大法廷の審査部会が受理した場合、および、過去の判例の解釈と異なる判断など、条約解釈に重要な影響を与える場合に限られる。なお、後者の回付は、事件の当事者のいずれかが反対した場合は行われない。また2004年のブロニオヴスキ対ポーランド事件判決以来の慣行であったパイロット判決手続も制度化され、構造的・制度的な問題に起因する同種事件の処理の効率化も図られてい⑷ 特徴的な解釈手法ヨーロッパ人権条約の解釈手法にはいくつかの特徴がある。本書に密接に関連する特徴として、目的論的解釈と裁量の余地があげられ⒜ 目的論的解釈ヨーロッパ人権条約は目的論的解釈を基調に展開してきた。人権条約の目的は、文字通り、人権の保護であり、民主的社会の理想と価値を維持・促進することにある。ここでいう民主的社会は、多元主義や寛容の精神、偏見の撲滅などを意味している。人権条約は、国家間の利害調整をおこなうものではなく、立法的性格または国際社会における人権章典1621)る。22)る。21)德川信治「概説Ⅱ:ヨーロッパ人権裁判所の手続と判決執行監視」小畑郁ほか編『ヨーロッパ人権裁判所の判例Ⅱ』(信山社、2019)8-10頁、前田直子「概説Ⅲ:ヨーロッパ人権裁判所の制度改革をめぐる近年の動向」同書11-14頁。22)詳細については、江島晶子「概説Ⅳ:ヨーロッパ人権裁判所の解釈の特徴」戸波江二ほか編『ヨーロッパ人権裁判所の判例』(信山社、2008)28‒32頁など。

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