3_性国
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としての役割を果たしており、その目的に適う解釈が展開されてきた。たとえば、各権利が現実的に保障されるように実効的解釈(effective interpretation)が積み重ねられてきた。その代表的なものが、締約国に課せられる積極的義務(positive obligation)の認定である。条約が規定する自由権の実現には、第1に国家が介入を控える義務(消極的義務)の履行が求められる。しかしながら、それだけでは当該権利が現実的に保障されない場合、国家には具体的な法政策の実施や制度の改正などを通じて権利を実現する義務(積極的義務)が課せられることとなる。更に、条約は、採択時の解釈のみに拘束されることのない「生きている文書(living instrument)」であり、ヨーロッパ地域や国際社会の変化を踏まえ、今日的状況に照らした発展的解釈(evolutive interpretation)も採用されている。こうした解釈が行われる際には、ヨーロッパの共通基盤(European Consensus)の有無が参照されることが多い。すなわち、ヨーロッパ人権条約の締約国に同じような国内法ないし国内実行がみられる場合には、採択時には想定外であったり、許容されていた制限であったとしても、権利侵害が認定される。もっとも、ヨーロッパの共通基盤の有無に過度に依拠することは、多数派の動向を無批判に肯定する態度へと変貌しかねず、人権の保護という本来の目的から遠ざかる危険性もあり、注意が必要である。⒝ 裁量の余地人権の保障は第一義的にはそれぞれの国家に課された義務であり、ヨーロッパ人権条約および同条約のもとで構築されている人権保障制度は、あくまでそれを補完するものである。ヨーロッパ人権裁判所は国内裁判所の上級審ではなく、各国の国内法ないし国内実行に関する判断はなお国家が担っている。しかし、だからといって、その判断は国家に無制限に認められているものではなく、条約による統制がかけられることとなる。この特徴から導き出されるのが、裁量の余地(margin of 3 ヨーロッパ人権条約について17

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