appreciation)という考え方であ23)「評価の余地」という日本語訳もあてられるが、国家がどこまで、どのような決定権をもつか、という点から本書では「裁量の余地」の訳語を採用した。18裁量の余地は、ヨーロッパ人権条約が国際条約であり、ヨーロッパ地域を含めた国際社会がいまなお主権国家が並存する状態であることに由来する考え方である。ヨーロッパ人権裁判所は国家に委ねられている判断の内容や範囲について、いくつかの要素を勘案しながら判断している。たとえば、権利の種類の視点からは、日本の憲法学と同様に表現の自由などは裁量の余地が狭く解されている。また、権利の制約目的という視点から、たとえば、道徳の保護は、締約国の歴史や宗教、文化などに深く根ざすものであり、裁量の余地は広く捉えられている。更に、発展的解釈において勘案されるヨーロッパの共通基盤も、裁量の余地を考慮する要素となっている。ヨーロッパ人権条約の締約国に同じような国内法や国内実行がみられる場合には裁量の余地が狭く、それらがばらばらであれば裁量の余地は広く認められる傾向がある。本書は、序章と終章をあわせて全8章で構成されている。第1章から第6章はすべて性的マイノリティに関連するヨーロッパ人権条約の判例の紹介とそれにもとづく検討である。第1章は「性行為の刑事処罰」、第2章は「性別記載の変更」、第3章は「パートナー関係の保障」、第4章は「性別による婚姻の制限」、そして第5章は「親子関係の保障」である。第6章では第1章から第5章の事案で扱われた「差別の禁止」に関連する部分を個別に検討している。第1章から第6章は、それぞれ5つの節で構成される。第1節「問題の所在」では、それぞれの章で扱われる内容について、23)る。4本書の構成⑴ 各章の構成
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