3_性国
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4 本書の構成19世界の法状況をふまえつつ、基本的な論点の整理を行った。第2節「重要判例」は、各章において先例となるヨーロッパ人権条約の判例を1つだけ取り上げ、事実概要と判決要旨を詳細に記述したものである。第3節「判例の変遷」は、第2節の重要判例を含めて、関連する判例を可能な限り網羅的に取り上げ、その移り変わりをまとめた。この節の判例には、ヨーロッパ人権委員会の決定や報告書など、裁判所の判決以外の法的判断も含まれている。なお、事例ごとの内容理解を容易にするため、重複する説明や記述もそのまま残しており、節全体が冗長な記述となっていることをあらかじめお許しいただきたい。第4節「検討」は、第3節の判例の文言を具体的に引用しながらヨーロッパ人権条約の解釈の歴史的展開とそこから読み解ける解釈論の特徴や残された課題などを分析したものである。最後の第5節「日本法の現状と課題」は、各章の内容に関連する日本の判例や法政策の現状とともに、ヨーロッパ人権条約の解釈を踏まえた課題と展望について考察している。⑵ 構成上の留意点本書の構成に関連して、2つの点についてあらかじめお断りをしておきたい。1つは本書で取り上げた事例の偏りである。本書では性的マイノリティに関連する事例の中でも性的指向におけるマイノリティ性に関連する事例が大多数を占めている。この偏りはヨーロッパ人権条約がいわゆる自由権に特化した条約であることに由来する。国家からの自由として特徴づけられる自由権については、国家権力による不当な介入の排除が第一義的な問題として浮上してくる。第1章で取り上げた「性行為の刑事処罰」はその典型例であり、ここから性的指向に関連する事例が蓄積されていった経緯がある。一方、たとえば性自認のあり方におけるマイノリティ性に関する事例の多くは、介入の排除ではなく、身分登録制度などの制度構築や改正が中心的な争点となる。このため、自由権の中でもその積極的義務違反が問われることとなり、議論を俎上にのせるまでには一定の時間を要する。また、社会保障や健康、雇用や労働に関する

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