3_性国
39/78

第1章1問題の所在主に(男性の)同性間の性行為を処罰対象とする刑事法上の条文はソドミー処罰規定と総称される。ソドミー法(sodomy law)ともいわれるが、単体の法律として存在することは稀であるため、本書ではソドミー処罰規定との表現を用いる。ソドミーという言葉は、旧約聖書の創世記に登場するソドム(sodom)の街に由来する。ソドムという街に住む人々の邪悪さと罪深さが神の怒りに触れ、街全体が滅ぼされたというもので、その邪悪さと罪深さの例として、生殖に結びつかないさまざまな性行為が意味づけられ、そこに1)同性間の性行為が含まれるものと解釈されてきた。ユダヤ教、キリスト教、イスラーム教に共通する教義として理解されているが、その歴史や解釈には違いもある。たとえば旧約聖書のレビ記では、男性間の性行為2)が死罪に値すると位置づけられている。新約聖書には戒めの対象の1つ1 問題の所在211)ミカエル・クレッカー、ウド・トゥヴォルシュカ編(石橋孝明・榎津重喜訳)『性の倫理』(九州大学出版会、1992)150頁以下。2)「女と寝るように男と寝てはならない。それは忌むべきことである。」(旧約聖書・レビ記18章22節)、「人は女と寝るように男と寝るなら、両者ともその忌むべき行いのゆえに、必ず死ななければならない。血の責任は彼らにある。」(20章13節)。性行為の刑事処罰―道徳・他者の権利保護という欺瞞

元のページ  ../index.html#39

このブックを見る