3_性国
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申立人の私生活に継続的な影響を与えている。たとえ同意の上で私的な場所でおこなう場合でも、男性との性行為には自制を強いることとなり、仮に実行すれば刑事訴追の対象となる状況に置かれるためである。規定が死文化していたともいえず、適用対象もあいまいであり、私人訴追の可能性も残されている。したがって、申立人の感じる訴追の恐れは現実的なものといえる(para.47)。たしかに、ソドミー処罰規定には8条2項にいう「道徳の保護」や「他者の権利および自由の保護」という一定の正当な目的がある。後者は、未成年者や精神疾患を有する者などの脆弱な人々を想定している点において、前者と不可分の関係にある。これは性行為に関する刑罰処罰に共通する。本件が特異なのは、北アイルランドのソドミー処罰規定が、同意の有無や年齢などにかかわらず、あらゆる状況下で男性間の著しい不品行やバガリーを一般的に禁止する点にある。したがって、本件の中心争点は、このような法律上の制約が「民主的社会において必要」(8条2項)か否かにある(para.49)。「必要(necessary)」とは、有効(useful)や合理的(reasonable)、好適(desirable)のような柔軟性をもつものではなく、急迫する社会的要請(pressing social need)の存在を含意する(ハンディサイド対イギリス事件判決976))。何が急迫する社会的要請に該当するかは第一義的に国が評価す(1るところであるが、その結果はなお裁判所の審査に服するものである。たしかに、「道徳の保護」にもとづく権利の制約は、国に広い裁量の余地(margin of appreciation)が与えられている。しかし、本件のように私生活の最も内面的な事項(a most intimate aspect)の制約(=刑罰)には、「特に深刻な理由(particularly serious reasons)」が必要である。そして、民主的社会との関係では、その制約が追求している目的と比例するものでなければならない。なお、裁判所は男性間の性行為の道徳性に関する2612)12)Handyside v. the United Kingdom, Judgment of 7 December 1976, Application no. 5493/72. 詳細は、江島晶子「評価の余地:表現の自由と道徳の保護(わいせつ物出版法による刑事訴追・押収):ハンディサイド判決」戸波江二ほか編『ヨーロッパ人権裁判所の判例』(信山社、2008)144‒149頁参照。

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