3_性国
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されるべきだが、その議論は尽くされていない。申立人は国内で起訴されておらず、そのことに世論の反発があるわけでもない。道徳の保護について第一義的な判断をすべき立法府がソドミー処罰規定を維持すべきだと判断している以上、国の裁量の余地の範囲内にあると考えるべきである。ⅱ マッシャー裁判官8条2項の「必要」は「急迫した社会的要請」の存在を含意するというが、2項の正当な目的が認定されれば、その目的達成のために講じられたいかなる措置も、目的が達成できない危険性が生じない限りは「必要」といえる。したがって、「必要」は措置だけを対象とし、目的の正当性そのものの判断は含まない。北アイルランドにおいて、申立人の状況が起訴の対象とならないことに争いはなく、私人訴追も公訴長官の判断に服するものであり、類似事案で起訴された事件は一定期間存在しない。事実、ソドミー処罰規定に公然と反対する活動を展開する団体は複数存在し、申立人はそういった団体の1つで事務局長を務めている。ソドミー処罰規定が存在することにより申立人が直接的に経験する恐怖や心理的ストレスの被害は、ほぼありえないように思える。考慮されるべきは、法律の規定そのものではなく、このような北アイルランドの現状である。法律の規定が実際に申立人の私生活に直接的な影響を及ぼして13)いたマルクス対ベルギー事件判決(1979)とは、この点で大きく異なる。警察の取調べも薬物使用の捜査で押収された物品にもとづくものであり、申立人がソドミー処罰規定の改廃とともに同意年齢引き下げの活動にも従事していたことから、行方不明の未成年者との関連性の捜査という目的も認められる。したがって、申立人は私生活に干渉をうけた被害者(victim)には該当せず、8条の権利は侵害されていない。ⅲ ピネロファリナー裁判官警察の捜査は薬物使用の延長線上にあり、マッシャー裁判官の反対意2 重要判例 ―ダジャン対イギリス事件判決(1981)2913)Marckx v. Belgium, Judgment of 13 June 1979, Application no. 6833/74. 詳細は、井上典之「非嫡出子:非嫡出子に対する不利益取扱いと家族生活の尊重:マルクス判決」戸波江二ほか編『ヨーロッパ人権裁判所の判例』(信山社、2008)362‒368頁参照。

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