見のとおり、同性愛との関係が疑われる行方不明の未成年者の捜査との関連性が認められるところ、結果としても起訴はされていない。事件は解決しており、申立人はソドミー法の改廃運動に従事し続けている。したがって申立人は被害者とはいえず、8条または8条に関する14条の権利は侵害されていない。なお、同性間の性行為がある程度の刑事処罰の対象になりうること、そして、そこには同意にもとづく私的な性行為も含まれうることをあらためて強調しておく。ⅳ ウォルシュ裁判官ハート・デブリン論争に代表されるように、法と道徳の関係は複雑である。ウォルフェンデン報告書に依拠している多数意見でも、性行為への刑罰処罰に共通する「道徳の保護」や「他者の権利および自由の保護」という一定の正当な理由をソドミー処罰規定についても認めている。多くの刑法規定は道徳的な原則に依拠しており、刑事罰によって道徳的な原則は強化されてもいる。本件では、同性愛が生まれつきの傾向であることが前提とされ、治癒の可能性は検討されていない。治らないものであれば、自己抑制できず、本人の責に帰すべからざる性的な好み(tendency)を理由として、個人を被害者とすることは同情と寛容をもって扱われなければならない。ただし、その好みが行動へと繋げられることは、別個の検討を必要とする。また、ソドミー処罰規定の執行は難しく、執行による害悪の発生は国の事情により大きく異なる。性道徳は単体で存在するものではなく、文化や社会制度と密接に関係している。したがって、8条の権利侵害はな3014)い。14)ウォルシュ裁判官は申立人が旧25条の被害者に該当しないとの前提にたっている。理由は以下のとおり。北アイルランドのソドミー処罰規定は、男性間の性行為を処罰するものであり、同性愛者を処罰するものではない。1885年法も著しい不品行の処罰であり、すべての男性間の性行為とは書かれていない。薬物使用に関する出頭は完全に任意のものであり、同性との性行為は、十分に黙秘権が与えられた中での発言である。実際に起訴されていないだけでなく、その恐れもない事案といえる。いわば集団訴訟の性質のものであり、申立権を有する被害者でもなく、差し迫った被害もない。
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