あとがき本書の構想は、著者の修士論文と博士論文をもとにしている。1999年度に修士論文を提出してから、気づけば23年の月日が流れていた。この間の変化は実に目まぐるしく、新しい判例がでるたびに、書籍化の構想の再検討を迫られつづけてきたことが思い起こされる。修士論文は第1章の重要判例「ダジャン対イギリス事件判決(1981)」を中心に構想していた。しかし、論文提出の直前に第5章の重要判例「モウタ対ポルトガル事件判決(1999)」がでたため、正月返上での書き直しを余儀なくされた。博士課程に進学し、国連人権高等弁務官事務所でインターンをしていた折、第2章の重要判例「グッドウィン対イギリス事件判決(2002)」が下され、2003年には日本で性同一性障害者特例法が成立し、博士論文の構成に大幅な変更が必要となった。同年には第6章の重要判例「カルナー対オーストリア事件判決(2003)」が下され、結局、博士論文の完成には更に2年を要した。博士論文の書籍化を進めていた矢先の2006年にはジョグジャカルタ原則が採択され、公刊予定の内容がより専門的に明確化されたため、書籍化の意義を見失うこととなった。その後、任期付きの職を転々としていた時、第3章の重要判例「シャルク・コップ対オーストリア事件判決(2010)」により博士論文の論旨は大規模な修正が不可欠となり、第4章の重要判例「オリアリほか対イタリア事件判決(2015)」により、これまでの解釈の根幹を含めて、更なる構成の再検討を迫られた。修士論文と博士論文の構想から本書まで23年を要したのは、素材とする判例がまさに「生きている法」として目まぐるしく変化し続けてきた背景がある。以上は、単なる言い訳である。書籍化にここまで時間がかかったのは、著者の怠惰な性格ゆえに他ならない。学部から大学院、そして現在の職に辿りつくまでの間、数え切れないほどの先生方や研究仲間、法曹関係者や当事者団体の方々から丁寧なご指導とご助言をいただいてきた。本書の完成までに長く時間がかかったことを率直にお詫び申し上げるとともに、これまでの温かいご支援に感謝を申し上げたい。特に、各時期にあとがき375
元のページ ../index.html#57