カスハラ
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第1章 小売業界⑵ 現場従業員への直接接触がなされること176本書でも繰り返し述べているように,こういったクレームに対しては,解決ではなく,こう着状態の構築を目指すべきである(第1編第1章5,第1編第2章7参照)。「モノ」に関するクレームとは別段の考慮が必要であることを意識して方針を構築しておかなければならない。 店舗において営業を行っている小売業の場合,顧客は当然ながら現に店を訪れているし,後から再訪することもできる。このことが何を指すかというと,顧客はクレームに対応した従業員に直接接触できるということである。 カスハラ対応の観点から,これほどリスクの大きい状況はない。直接接触がなされると,顧客と従業員以外の第三者が介入するタイミングが減少する。そうすると,組織的対応を行うことができず,従業員個人の判断に基づく,企業としての立場からそれた対応がなされる可能性が高まる。最悪の場合には,企業としてはそもそもカスハラが発生しているということ自体を把握できていないまま,被害だけが発生し続けるということもあり得る。このような場合に最終的なリスクを負うのは,カスハラによって人的資源をいたずらに奪われ,従業員とも労働関係上の責任を生じ得る企業にほかならない。 したがって,現場従業員には少なくとも「この場面では自分限りで対応してはならない」と判断することができる程度のカスハラ対応能力を習得させる必要がある。特に小売業においてはホスピタリティが顧客誘引力に直結するものであるから,熱心な従業員であればあるほど,組織的対応への引継ぎ基準を甘く見積もりかねない。したがって,企業側としては明確かつ,多少早すぎる程度の基準を設定し,現場従業員限りでの対応がなされる余地を可能な限り小さくする必要がある。

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